映画王モリコラム ツォツィ
「ツォツィ」(2005/英・南アフリカ)
昨年あたりから「ホテル・ルワンダ」を始め、日本でもアフリカを舞台にした映画が続々と公開されている。貧困や犯罪、戦争、内乱、利権を巡っての先進国の干渉等映画の題材には事欠かない問題が山積していることが要因のひとつとも指摘されているが、そんな中で南アフリカの現状を自国のスタッフ、キャストをメインにして作られたこの作品は、見事2006年のアメリカのアカデミー賞外国語映画賞を受賞した実績が示すとおり、見応えのある作品に仕上がっている。
スラム街に住む少年ツォツィ(“不良”という意味がある)は仲間と共に犯罪と暴力に明け暮れる日々。ある日1人で裕福な黒人女性を襲い車を強奪、しかしその中に赤ん坊が乗っていたことから・・・。物語はアパルヘイトが撤廃されて10数年経た南アフリカの現在の問題、貧富の格差(しかもこの格差は黒人内にも広がってきている)、そしてそれらが生み出す犯罪を描きながら、偶然赤ん坊の面倒を見ることになる主人公の心の変化と贖罪が観るものの胸を打つ。
特に主人公を演じたP・チュエニヤハエの飢えたような鋭い眼光が、劇中赤ん坊の世話をするうちに徐々に和らいでくその演技が素晴らしく(この映画を観た時、偶然映画館で映画王の番組で知り合った T氏と出会ったのだが、彼曰く“若い頃の根津甚八のような目つきやった”という表現は言い得て妙だと思った。)、残酷な行動に走る主人公が、「命」に目覚める展開に説得力をもたらしている。
決して明るい話ではないけれども、赤ん坊を奪われた黒人夫婦と主人公が対峙するクライマックスは、その主人公が最後に選択する行動と共に、悲惨な現実が大きく横たわりながらもそれでもなお、この社会に対して、彼らを信じ、希望を託したいという作り手の熱い思いを感じずにはいられない。その幕切れは観客へ何かを問いかけてくるかのような深い余韻を与えてくれる。
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