映画王モリコラム「理由」(2004/日本)
「理由」(2004/日本)
直木賞を受賞した宮部みゆきの原作は、私も以前読ませて頂いたのだが、正直言ってその時はこの作品をそのまま映画化するのは無理だろうなと思っていた。超高層マンションで起こった殺人事件の謎解きを、事件に関与した100人を超える人物をインタビューした時の証言で構成されたこの原作、小説としては抜群の面白さだが、いわゆる核となる主人公も存在しないわけで、映画には構成上不向きな題材じゃないかなと。しかし映画化されたこの作品を観て驚いた。ある意味特異な原作のテイストを少しも損なわずに見事に映像化されているのだ。数多くの人物が登場し、そのひとつひとつの証言がまるでジクソーパズルをはめ込んでいくかのように事件の全貌が明らかになるという展開も違和感なく映像化され、そのミステリーの醍醐味を味わいつつ、欲望に踊らされる人間の愚かさと哀しみも同時に浮かび上がってくる。極めて実験的な作品でありながら、それが決して独りよがりになることなく、複雑な構成でありながら混乱することなく、実に判りやすいエンターテインメントに仕上がっていることも嬉しい。大林宣彦監督の技巧派振りが堪能できるまさに会心の一作に仕上がっている。
コメント