映画王モリコラム:死刑台のエレバーター
「死刑台のエレベーター」(1957/仏)
フランスのヌーベルバーグの嚆矢となった作品として、マイルズ・デイビスが映画のラッシュを観ながら即興で音楽をつけたという逸話もあまりにも有名なこの作品はサスペンス映画の名作として現在でも評価は高い。社長夫人と愛人関係にあった主人公は、夫である社長を殺害するため完全犯罪を計画する。しかし犯行後に主人公がエレベーターに閉じ込めれてしまったために、事件は思わぬ展開となり・・・。物語は都会で起きた一晩の出来事をモノクロでシャープな映像処理で語られていく。車、拳銃、小型カメラ、そしてエレベーターなどの使い方が絶妙で、それらの小道具が物語に効果的に使われており、それがそのまま完全犯罪が崩れるきっかけにもなっているあたりがサスペンスとして面白く観れると同時に、現代社会に対する皮肉にもなっている。
しかしこの作品、物語の骨格はサスペンス映画の形態を取りながら、実は狂おしいまでの濃厚な恋愛映画でもある。冒頭の社長夫人のクローズアップから発せられる台詞から中盤の夜の街を彷徨する彼女の姿、そしてラストの独白まで物語を圧倒しているのは社長夫人扮するジャンヌ・モローの存在感であり、彼女の主人公に対する強烈な想いがこの映画を支配しているといっていいほど。その情念の凄さと不倫と殺人いう背徳ゆえのアンニュイなムードがデイビスの音楽にも見事に反映され、更に普遍性を高めている。
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